THE FIRST ICOI ADVANCED IMPLANT SYMPOSIUM vol.2

デンタルトリビューン8月号

先ごろ,東京国際フォーラムにおいてICOI(International Congress of Oral Implantologists)主催による日本で初めてのシンポジウムが開催された。同シンポジウムは2日間にわたって行われ,小紙では前号に引き続き招待講演の概要を報告する。


インプラントが失敗するおもな原因に荷重負荷,応力の問題がある。Carl E. Misch氏はバイオメカニックスこそが歯科インプラント治療の基本的軸となるものだとする。インプラントに関するバイオメカニックスの基本と,部分欠損症例での重要な埋入部位を紹介した。

バイオメカニックスとは何か

歯科は「サイエンス」と「アート」の両面を持つ。しかし,審美的な補綴物を実際に作成するのは歯科技工士であり,歯科医師が「ドクター,先生」と呼ばれるのは「サイエンス」を担うものとしての称号である。さらに歯科のサイエンスには,生物学的サイエンスとバイオメカニックス(生体力学)的サイエンスの2つの側面がある。

さて,天然歯に生じる問題はう蝕や歯周病などが多く,生物学が大きく関与するが,インプラントで生じる問題は荷重負荷によるものが多く,これらはバイオメカニックスに由来する。

術者の力量不足による外科手術の失敗を除き,インプラント失敗のほとんどは荷重後18か月以内に生じる。適度な応力であれば骨は徐々に強度を増すので一定期間経過後は十分に耐えられるが,インプラント埋入当初に過度の応力をかけてしまうと骨吸収につながる。
「 咬合性外傷が原因で歯槽骨吸収が起きることはない」というのは,歯根膜によって骨への応力を緩和しえる天然歯であてはまるが,インプラントには該当しない。骨は荷重によって吸収が促進される性質を持つ。骨細胞に荷重して変形させた結果,カルシウムやサイトカインなどに変化が生じ,骨吸収につながることが示された(Meikle 1989,Bidez&Misch 1992)。

骨吸収の原因として,マイクロギャップや生物学的幅径が原因だと広告しているメーカーがあるが,本当にそうだろうか。

細菌の大きさは約8μmであり,マイクロギャップが8μm以上だと細菌が侵入するから問題だという。しかし,クラウンマージンは40~80μmあるが,ここに細菌が侵入して骨吸収が生じることはない。カバー・スクリューがインプラントに装着される場合も同じようなマイクロギャップが存在するが,カバー・スクリューを外してみると,骨吸収どころかインプラントの上に骨ができていることが多い。

表

また,生物学的幅径よりもインプラントの表面性状のほうが重要であることが示されている。粗造表面をクレストの高さで埋入すると骨の高さは6か月維持されたが,粗造表面が1.5mmのところにあるインプラントでは最初の1か月で粗造表面の高さまで骨吸収が生じた。

この他にも,骨吸収に関連する因子として骨密度,骨強度が重要であると考えている。しかし誤解しないでほしい。治療計画の立案については,利用できる骨の有無から見るのではなく,理想的な治療計画を考えてから骨を見るべきである(表)。

4つの重要な埋入部位

天然歯はその与えられた位置や機能によって大きさも形態も異なる。同様にインプラントも,骨移植を行ってでも確実に埋入すべき部位がある。私は埋入部位の4つの基本原則を定めている。

原則 1.カンチレバーは用いない

まず,天然歯とインプラントとの連結は禁忌であり,これはカンチレバーの力が働くことによる。よって私は前歯部であっても2歯連続欠損ではインプラントを2本埋入している。歯間乳頭を理由にインプラントを2本並べてはいけないとする先生がいるが,これは正確ではない。骨が十分に維持されていれば歯間乳頭はできる。ポイントはインプラント間の距離を3mmとすることだ。特に上顎は緻密骨が少ないため,カンチレバーは用いてはいけない。

また,しばしば図1のような埋入例を見ることがあるが,シーソーを例に考えてみると,このとき,てこの支点に位置するインプラントには2~3倍に増幅された応力がかかることとなる。つまり,3歯連続欠損でカンチレバーを用いると成功率はさらに低くなる。よってこの場合の埋入位置は,前方,後方,最後の部分に1本ずつ,つまりすべてである。カンチレバーは審美的には扱いやすいとしても,ネジのゆるみ,骨吸収の可能性が高くなる。

原則 2.ポンティックは2歯まで

構造力学に「梁(beam)の解析」という手法があるが,ポンティックが2歯の場合,たわみの量が8倍になる。このため修復物のセメント脱落やスクリューの緩み,ポーセレン破折が生じやすくなる。ポンティック3歯の場合は2本の支台歯が5歯分の歯の力を受けることになり,たわみの量は27倍に達する。

補綴学の教科書でも,「臼歯部3歯のポンティックは禁忌」とされている。実際に,天然歯の固定性ブリッジ(FPD)の成功率は,3ユニット73.1%に対して4ユニット68.3%(De-Bakerら,2005),5ユニットでは58.7%とさらに低くなることが示されている(DeBakerら,2006)。

原則 3.犬歯と臼歯のルール

歯列上でバイオメカニックス的に特に重要なのが,犬歯と第一,第二大臼歯である。

ヒトの歯列は,犬歯を保護するようにつくられており,補綴学でも「犬歯および隣接する2歯が欠損する場合は,固定式補綴は禁忌」とされている。例えば3~5番が欠損している場合は3,5番に埋入し,天然歯とは理想的な距離,1.5mmを開ける。骨量が足りなければ,骨増生を行って埋入すべきである。

さて,歯列の中で大臼歯が最大の表面積を有する。表面積当たりの力は前歯の5倍になるが,この応力に対してヒトは歯根の大きさを変えることで対処してきた。ここをカンチレバーにしている症例を見ることがあるが,すでに5倍の負荷をさらに倍にし,10倍の応力がかかる治療をしていることとなる。絶対にしてはいけない。

もしも患者が「サイナスリフトは嫌」と言うなら,「治療費は2倍です」と伝えるべきである。サイナスリフトせずにカンチレバーとするのは,費用や痛み,治療期間を抑制できてよいように感じられるかもしれないが,歯科医師側からは,リスクの高い処置を安価で提供しているに過ぎない。

また,上顎第三大臼歯の位置に斜めに埋入する症例を見るが,インプラントでも天然歯でも15°の角度がつくと直立の場合と比べて応力が25%高くなる(図2)。上顎はほとんどがサイナスリフトを行うべきであり,もしもできないなら他の専門医に紹介すべきである。「自分ができるか否か」で治療選択肢を狭めるべきではない。

つまり,5~7番欠損であれば,最低埋入本数は3本である。

原則 4.アーチダイナミクス

このように,インプラントには特に埋入すべき位置というものがある。私はバイオメカニックス的観点から歯列を5つのセクションに分けており,複数のセクションにまたがった欠損では少なくとも各セクションに1本ずつインプラントが必要だと考えている。例えば,4~4の欠損は5つのセクションすべてに関わる欠損であり,最低限5本のインプラントが必要となる(図3)。

例えば建築では基礎工事が重要であり,上に何が建つかによって基礎工事も異なる。インプラントにおいても同様であるが,上部構造が異なるにも関わらず基礎工事を同じように考えている方が多い。「骨量は十分か?」というところから治療計画を練り始めると,基礎工事で妥協することになる。

インプラントの治療計画はアートのみではなくサイエンスも考慮すべきであり,特にバイオメカニックス的観点から立案すべきである

ピエゾサージェリーは微細な切削や硬組織の選択的切削などの特長を持ち,粘膜や血管などの損傷するリスクが低いため注目を集めている。Dong-Seok Sohn氏は自らの症例を中心に,より侵襲性が低く予知性の高いサイナスリフトを行うための臨床応用について紹介した。

骨移植を行わずに新生骨を獲得

ピエゾサージェリーはミリ単位の微細な切削が可能であり,軟組織を傷つけずに硬組織のみ削除し,出血量が少なく明瞭な視野が得られる。このため,インプラント埋入が困難と考えられる上顎骨不足例であっても,上顎洞穿孔や神経・血管の損傷を来すことなく埋入可能となる。

サイナスリフト時に最も多く見られる合併症は上顎洞穿孔であり,そのリスクは従来のバーでは10~34%(Carl E. Mischら,1987)あるいは44%(Devorah Schwartz-Aradら,2004)であった。しかしピエゾエレクトリック機器を使用することで,ラウンドチップでは約2%(43例中1例),ソーでは約7%(84例中6例)とリスクを著しく抑制することができた。

また,サイナスリフトでは通常,骨量の不足を補うために自家骨移植や骨移植を必要とする。そこで,ピエゾサージェリーの特長を生かし,骨移植を行わずにサイナスリフトが可能かどうかを検討した。対象は上顎洞に特別な問題のない10例とし,上顎洞粘膜を挙上し,新生骨造成のスペースを維持するために同時にインプラントを埋入することとした。治癒期間は6か月とし,新生骨造成の評価のためバイオプシーを行った。その結果,10例に計21本,残存骨の高さは1~9mm,10~15mmにてインプラントが植立され,骨移植を行わなくてもいずれも十分な量の新生骨が得られ,感染やインプラントの脱落はないことが分かった。

骨窓リポジショニングの利点

図1 術前

図2 術後6ヶ月

なお,この研究では埋入前後に2つの異なる処置がされていた。ラウンドチップを用いて非吸収性メンブレンでラテラルウィンドウを閉じたA群(5例)と,ソーを用いリポジショニング可能な骨窓で閉じたB群(5例)である。両群を比較したところ,B群のほうがコストや手術時間,メンブレン除去の手間,早期に新生骨が造成されるという点で,より優れていることが示された(図1,2)。つまり,非吸収性メンブレンを用いるよりも,骨窓リポジショニングのほうが利点の多い処置であると考えられる。

そこでわれわれは,骨窓リポジショニングの有効性を検証するために別の研究を行うこととした。末梢静脈血を移植してインプラントの同時埋入を行い,リポジショニング可能な骨窓で閉じることとした。対象は13例,インプラントは計30本埋入され,残存骨は3~8mm,平均治癒期間は6.8か月であった。観察の結果,CT上で新生骨が確認され,インプラントの脱落例もなく感染も特に見られなかった。

これらの研究結果から,サイナスリフトにピエゾエレクトリック機器を応用することで骨移植材を用いなくても高い予知性が得られ,1) 簡便な術式2) 患者の手術費用の軽減3) 感染リスクの低減4) 合併症による死亡リスクの低減5) 術後感染リスクの低減—という点において優れた処置であると結論できる。

インプラントに関して治療術式の安全性,確実性,正確性が求められるなか,勝山英明氏はマイクロスコープを応用したインプラントサージェリーが大きな効果を発揮することを解説した。

重要性を増すマイクロ下でのインプラントサージェリー

近年,インプラントの治療精度向上に大きく貢献する機器が開発されている。コーンビームCTやサージカルガイドは的確なインプラント治療に役立つツールとして使われている。マイクロスコープもそうしたツールの1つであると考えている。臨床応用される機会も増えており,審美性が求められる部位に取り扱う専門家も増加傾向である。

例えば,サイナスリフトにおける合併症は,視野の確保の難しい部位で穿孔が多いと考えられ,それを防ぐためにマイクロスコープを活用するマイクロサージェリーが有用であることを臨床的に確認した。

またマイクロスコープは,術者の視野がモニターにより画像が共有できることから,教育やトレーニングにおいても有用である。

歯科におけるマイクロサージェリーの応用は医科と比較して遅れており,歴史は浅い。この20年間の文献を検索すると,マイクロサージェリーに関しては2万4,000本以上の論文が発表されているが,歯科のインプラントに関してはわずかに31本にとどまっており,近年は減少傾向にある。すなわち,歯科におけるマイクロサージェリーに関しては,エビデンスの検証はいまだ十分になされていない。

先進的インプラント治療を可能に

当初,サイナスリフトを行うに当たり,マイクロスコープを使うことは考えていなかった。しかしインプラントの審美性には解剖学的要因,生物学的要因や臨床経験などが関係してくるうえ術式の精度も重要であることから,いまや審美性が求められる部位ではマイクロスコープは必須のツールである。また,コーンビームCT等との組み合わせにより,術前診断の精度も飛躍的に高いものとなった。

ITIコンセンサスミーティング(Stuttgart, Germany 2008)で発表されたサイナスリフトに関する系統的レビューでは,1,039のスタディにおいて4,574例の患者に対する1万3,778本のインプラントの結果を検証した。結果,インプラントの生存率は平均95%であった。このようにサイナスリフトについては十分に科学的なエビデンスが蓄積されている。

一方,上顎洞は解剖学的な制限があり,中隔の存在はパノラマX線写真では14.9%しか確認できず,多くの状況において2次元のX線写真では存在すら把握できていない。そのため,従来は中隔の存在を確認し,それに対してどのようなアプローチをしていくかは明確にされていなかった。

今日では,サイナスリフトの適応症において中隔の高さが低いものに関してはサイナスリフトを行い,骨の治癒を獲得した後,インプラントの埋入を行うケースを蓄積してきている。また,側壁の中隔の高いケースにおいても2つの部屋に分けてサイナスリフトを施行する,もしくは中隔を含めて1つの部屋にサイナスリフトを行うなどのアプローチを行っている。多くのケースは非常に複雑で治療計画の立案が困難だが,複雑なエリアでもインプラント治療の評価が高まっている。

近年,マイクロスコープは安全で審美性の高いインプラント治療を高い精度で実施するうえで非常に有用なツールである。その他,通常の治療にマイクロスコープを重ね合わせることで治療の精度向上を果たし,診療の質を高め,患者によりよい治療を提供していくことができるものと考えている。

今後の歯科界発展において重要なカギの1つとなるのが,次代を担う歯科医師の存在である。同シンポジウムでは,臨床や研究におけるこれまでの知見を学び,また,自らも新たな取り組みを重ねる気鋭の若手歯科医師2名による発表が行われた。

上顎洞エリアの偶発症

神作歯科医院副院長
神作拓也氏

神作氏は上顎洞の術前・術中・術後の各段階で見られる偶発症とその対応について,多くの文献をレビューしながら解説した。最も多く見られる偶発症は穿孔であり,特に上顎洞隔壁(septa)が存在する場合は発現率が高くなるので,骨窓を2つに分ける処置などが必要になるという。

同氏は,穿孔が生じた際にまず注意すべき点として,1) 穿孔の大きさを確認するためにむやみに膜を手探りしない2) フラップの剥離を大きくして見やすくし,骨窓へのアクセスを改善する—の2点を挙げ,次に,穿孔の大きさではなく位置で対応することが重要だと紹介した(表)。

一方で,穿孔が生じた場合であってもインプラント生存率に影響しないという報告があるという(Hemadez,2008)。ただし,同報告では10mm以上の大きな穿孔が見られた患者では失敗率が高く,同時埋入は避けるべきだと指摘している。

この他,内視鏡下でのソケットリフトやサイナスリフト後の上顎洞炎についても言及。「膜は術前に正常であっても,挙上することで腫脹し自然孔を閉鎖する場合もある」とし,「術中・術後の管理において,歯科衛生士や歯科助手,そして患者自身にも十分理解してもらうことが重要」と呼びかけた。

上顎前歯部単独歯インプラント治療の診査診断とその予知性~ Hanging-Bridge Conceptの診査診断~

銀座UCデンタル
インプラントセンター副所長
梅津清隆氏

梅津氏は,上顎前歯部の治療計画を立案するに当たり診査・診断が最重要であるとし,判断の軸となる考え方や分類法について発表した。

同氏はまず,欠損症例であれば歯周組織が十分か否かを見て,予後不良症例であれば感染が急性か慢性かを確認し,4つの大まかな治療方針に分けているという。上顎前歯部の欠損が単独歯欠損である場合,抜歯窩による分類法であるEDS(Extraction Defect Sounding)分類も用いている。EDS分類ではボーンサウンディングが必須となるが,予知性の高さや,治療法の選択基準が判断できる。

さらに,同氏はロマリンダ大学在学中にJohn C. Kois氏やJoseph Y. K. Kan氏らとともに研究を行い,「歯間乳頭の高さは,インプラント近心の骨レベルよりも両隣在歯のインプラント側の骨レベルに依存する」という結論が得られたことを紹介。

この研究結果から着想を得て同氏は,「いわば吊り橋において支柱が橋の高さを維持しているように,両隣在歯の骨頂がインプラントの周囲歯肉を維持するのでは」と考えるに至り,「Hanging-Bridge Concept」を提唱した(図)。臨床での観察症例はまだ2~3年であり,長期データの蓄積が今後の課題となる。

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